朝7時50分。玄関にはカバンが置いてある。でも子どもは布団から出てこない。時計の針は進み続けているのに、子どもは動かない。
「今日は行こう」「あと5分だけ」――そう声をかけながら、頭の中では自分の出勤時間を逆算している。8時15分を過ぎたら、上司にどう連絡しよう。今日は代わりの利かない会議がある。
そして結局、少し無理やりでも「行こうか」と背中を押して、車に乗せる。子どものすっきりしない顔を横目に会社へ向かう車の中でこみ上げてくるのは、安堵ではなく罪悪感だ。
「休ませてあげればよかったのかもしれない」「また無理させてしまった」――そう思いながら、今日もハンドルを握っている保護者は、実はとても多くいます。
この記事では、「休ませてあげましょう」だけで終わらせず、仕事を休めない現実の中で今日から使える選択肢と、罪悪感との付き合い方を、放課後等デイサービスで18年働いてきた立場から整理します。
せんせい、行き渋ってる子を無理やり学校に連れて行っちゃうの、やっぱりダメなことなのかな……?
そんなことはないよ。私が現場で会ってきた保護者の多くが、同じ選択をしてきた。「ダメなこと」と決めつける前に、なぜそうせざるを得ないのか、一緒に整理してみよう。
なぜこんなに苦しいのか
行き渋る子どもを前にしたとき、保護者の心の中では二つの「正しさ」がぶつかっている、と感じることがよくあります。
一つは「子どもの気持ちを守りたい」という正しさ。無理に行かせて、心がすり減ってしまったらどうしよう、という不安です。
もう一つは「生活を守りたい」という正しさ。仕事を休めば収入が減り、周囲からの信頼にも影響が出るかもしれない――これも、家族の暮らしを守るための、とても大切な正しさです。
この二つは、本来どちらも「子どものため」につながっています。子どもを守りたい気持ちも、生活を守りたい気持ちも、間違ってはいません。だからこそ、どちらかを選ぶたびに、選ばなかった方への罪悪感が残ります。板挟みで苦しいのは、あなたのやり方が悪いからではなく、両方をちゃんと大事にしているからこそ生まれる、自然な苦しさなのです。
現場で出会う保護者の多くが「どっちも正しいのに、どっちも選びきれない」と話してくれます。それは弱さではなく、両方をきちんと大事にしている証拠だと、私は思っています。
無理に行かせてしまう自分を、責めないでください
結論から言うと、行き渋る朝に「今日は行こう」と背中を押すこと自体は、多くの家庭が実際に選んでいる、ごく普通の対応です。「無理に行かせた=親として失格」ではありません。
毎朝、完璧な対応ができる家庭はほとんどありません。仕事の都合やきょうだいの予定、その日の余力によって対応が変わるのは当たり前のことです。多少無理をして登校した日があったからといって、それだけで子どもの心が壊れてしまうわけではありません。
ただし、一つだけ見ておいてほしい線引きがあります。それは「毎日、強い抵抗が続いているかどうか」です。
こんなときは様子を見ながらでOK
朝は渋るけれど、登校すれば友達と過ごせている。数日で落ち着く波がある。
こんなときは相談のサインとして見てほしい
腹痛・頭痛など体の症状が繰り返し出ている/「行きたくない」ではなく「消えたい」「もう無理」といった強い言葉が出る/行き渋りが何週間も毎日続いている
この見極めは、家庭だけで抱え込むものではありません。担任やスクールカウンセラー、かかりつけ医などに相談しながら判断していくものです。「毎日のこと」が続く場合は、一人で抱え込まず、周りに相談してください。
今日から使える、現実的な選択肢
「休ませる」か「無理に行かせる」かの二択ではなく、実はその間にいくつもの選択肢があります。以下の表で整理しました。
| 選択肢 | どんなときに使えるか | 相談先・注意点 |
|---|---|---|
| 遅刻登校・別室/保健室登校 | 朝は動けないが、学校には行けそうなとき | 担任・保健室の先生にあらかじめ相談しておく |
| 半日だけ・給食だけ・午後から登校 | フルタイムはつらいが少しなら参加できるとき | 対応は学校により異なる。事前の取り決めが安心 |
| 放課後等デイサービスの利用 | 学校を休んだ日の居場所として | 学校を休んだ日に利用できるかは事業所・自治体により異なる。必ず事業所に確認を |
| 学童・ファミリーサポート・一時預かり | 急な欠席でどうしても預け先が必要なとき | 自治体の窓口・地域のファミリーサポートセンターに確認 |
| 子の看護等休暇・時差出勤・在宅勤務などの職場制度 | 勤務先に該当制度があるとき | 制度の有無・条件は勤務先や法改正で異なる。就業規則・人事に確認を |
| 祖父母・地域の支援 | 頼れる人が近くにいる場合 | 無理のない範囲で。頼ることは甘えではない |
職場にどう伝えるか
職場に事情をすべて話す必要はありません。「子どもの体調不良のため」という一言で足りる場面も多くあります。
行き渋りが数日〜数週間続きそうなときは、詳細を話さなくても、見通しだけ共有しておくと、その後のやり取りが少し楽になります。
伝え方の例
「しばらく子どもの体調で、朝のお休みや遅刻をお願いすることがあるかもしれません。落ち着いたらまたご報告します」
すべてを説明しようとせず、必要な分だけ伝える、という考え方で十分です。
学校への伝え方
毎朝、状況を説明する電話をかけるだけでも、保護者にとっては大きな負担になります。
あらかじめ決めておくと楽になること
- 遅刻・欠席の連絡方法(電話以外に連絡帳やアプリが使えるか)
- 「今日は難しそうです」の一言だけで済ませてよいか
- 別室登校や保健室登校を選べる日があるか
「今日も休みます、すみません」を毎回言葉を尽くして説明しなくても伝わる関係を、少しずつ担任と作っておくことが、朝の負担を減らします。
一番大事なこと
仕事も、子どものことも、両方をひとりで完璧にこなそうとすると、いずれ保護者自身が倒れてしまいます。
親が倒れてしまえば、家庭そのものが回らなくなります。だからこそ、自分を休ませること、周りに頼ること、制度を使うことは、甘えではなく、子どもを守るための行動そのものです。
「自分を大事にする」は、後回しにしていい話ではありません。保護者が元気でいることが、子どもにとって一番の安心材料です。無理に行かせてしまった朝があっても、大丈夫ですよ。
今日、無理に「行って」と言ってしまった自分を、どうか責めすぎないでください。使える選択肢を少しずつ知っておくことが、明日の朝を少しだけ軽くしてくれます。
おわり
この記事を書いた人|ヒコ先生
放課後等デイサービス・児童発達支援の現場に18年。児童発達支援管理責任者として、個別支援計画の作成から日々の療育、保護者支援まで携わっています。
社会福祉士/精神保健福祉士/公認心理師/児童発達支援管理責任者/相談支援専門員/医療的ケア児コーディネーター/児童指導員/成年後見人/ペアレントトレーニングリーダー養成研修修了者


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