「STEAM教育とは?発達障害・発達が気になる子に向いている理由」を読んで、「うちの現場でも取り入れてみたい」「家庭でもやってみたい」と思った方から、次に必ず聞かれる質問があります。「で、結局どのツールを、どの順番でやればいいんですか?」というものです。
これは現場の感覚としてもとてもよくわかる疑問です。STEAM=Science・Technology・Engineering・Art・Mathematicsの5領域はバラバラに並べられることが多く、「とりあえず全部触らせてみる」という進め方になりがちです。ですが、それでは子どもの中に「積み上がっている感覚」が育ちにくく、支援者側も「今日は何をやる意味があるのか」を説明しづらくなります。
この記事では、ヒコさんブログの無料療育ツール11本を使って、土台づくりからS・T・E・A・Mの5領域まで、意味のある順番で組み立てた実践プログラムを紹介します。「①→②→③という順番にはこういう意味がある」という体系を理解した上で、今日から使える形でお伝えします。
[say img=’https://hikosan-blog.com/wp-content/uploads/2026/05/hiko-icon-portrait.jpg’ name=’ヒコ先生’]順番って実はすごく大事なんです。土台なしにいきなり「工学」の複雑な課題をやらせると、子どもは何をどうすればいいかわからず固まってしまう。逆に、簡単なところから少しずつ積み上げていくと、同じ子が驚くほど粘り強く取り組めるようになります。今日はその「積み上げ方」を具体的にお話しします。[/say]
プログラムの全体像
まず結論として、全体の流れを一覧表にまとめます。土台となるStep0から始まり、S→T→E→A→Mの順に進めていきます。この順番には理由があり、それぞれのセクションで詳しく説明します。
| Step | 領域 | ツール名 | 育つ力 |
|---|---|---|---|
| Step 0 | 土台 | タスク分解トレーニング | 物事を順序立てて考える力 |
| Step S | Science(科学) | ふしぎ実験シミュレーター | 予測してから確かめる力 |
| Step S | Science(科学) | ピカピカ回路ラボ | 因果関係を理解する力 |
| Step T | Technology(技術) | プログラミング的思考トレーニング | 条件分岐・繰り返しの理解 |
| Step T | Technology(技術) | ロボットおつかいプログラミング | 手順を組み立てて指示する力 |
| Step E | Engineering(工学) | ころころビー玉コースメーカー | 小さな構造を試行錯誤する力 |
| Step E | Engineering(工学) | まちづくりエンジニア | 全体を見通して計画する力 |
| Step A | Art(芸術) | キャラクターダンスメーカー | 身体・リズムで表現する力 |
| Step A | Art(芸術) | 折り紙で形の変換思考 | 空間的な創造・変換の感覚 |
| Step M | Mathematics(数学) | 10のまとまりゲーム | 数の構造・パターン感覚 |
| Step M | Mathematics(数学) | STEAMパズル思考トレーニング | 論理パズルへの応用力 |
ポイントは、S・T・E・Aと論理的思考を積み重ねたあと、いったん表現活動(Art)で一息入れ、最後にMで数の感覚に戻ってくるという流れです。ずっと論理課題が続くと集中が切れやすい子でも、この波があることで最後まで取り組みやすくなります。
Step 0:土台づくり(タスク分解トレーニング)
すべてのステップに進む前に、まずここから始めます。理由はシンプルで、S・T・E・A・Mのどの活動も「物事を順番に考える」というスキルが土台にないと、途中でつまずいてしまうからです。実験も、プログラミングも、工作も、すべて「まず何をして、次に何をするか」という順序の理解が前提になっています。
この段階では正解の速さよりも、「順番があること」「順番通りにやるとうまくいくこと」を体感してもらうことを大事にしています。ここで手応えを感じられると、次のステップへの抵抗感がぐっと減ります。
大きな課題を小さな手順に分けて並べる練習ツール。ここで「順番に考える」感覚をつかんでから次のステップへ進みます。
Step S:科学(予測→検証のサイクル)
土台ができたら、次はScience(科学)です。ここで身につけてほしいのは、知識そのものよりも「こうなるはず」と予測してから確かめる、科学的思考のサイクルです。この「予測→検証」という型は、この後のT・E領域すべてで繰り返し使うことになる、非常に汎用性の高い考え方です。
① ふしぎ実験シミュレーター:予測・観察・考察の型をつかむ
まずはこちらから始めます。画面上で安全に「実験」ができ、失敗してもすぐやり直せるため、間違いを恐れずに何度も試せます。「やってみる前に予想する」という一手間を大事にすると、単なる操作遊びで終わらず、思考が伴う活動になります。
身近な「なぜ?」を画面上で確かめる実験ツール。予測してから試す、というサイクルを最初に体験します。
② ピカピカ回路ラボ:「なぜそうなるか」の因果関係理解へ
予測・観察・考察の型がつかめたら、次は回路ラボで一歩踏み込みます。電気がつながると明かりが灯る、という目に見える因果関係を扱うことで、「予測が当たった・外れた」だけでなく「なぜそうなったのか」を考える段階に進みます。
回路をつないで明かりを灯す仕組みを、視覚的・具体物操作的に理解できるツール。因果関係を考える力を伸ばします。
Step T:技術(手順を組み立てる論理的思考)
科学で「予測→検証」の型を身につけたら、次はTechnology(技術)です。ここでは条件分岐や繰り返しといった、プログラミングの基礎概念に触れます。Step Sで「なぜそうなるか」を考える経験を積んでいるので、「こう指示すればこう動く」という因果の理解にスムーズにつながります。
① プログラミング的思考トレーニング:まず概念を学ぶ
順番にブロックを並べてキャラクターを動かす形式で、プログラミングの基礎概念にやさしく触れられます。抽象的な「プログラミング」という言葉ではなく、実際に手を動かしながら「順序・繰り返し・条件」を体感できる点が現場でも使いやすいところです。
ブロックを並べてキャラクターを動かす、プログラミングの基礎概念に触れるツールです。
② ロボットおつかいプログラミング:より実践的な課題へ
概念に触れたら、次は「ロボットにおつかいの指示を出す」というより実践的な課題に進みます。目的地までの手順を自分で組み立てて実行させる経験は、次のE(工学)で必要になる「計画してから作る」という力に直結します。
ロボットにおつかいの指示を組み立てて実行させる、手順を組み立てる力・見通しを立てる力を伸ばすツールです。
Step E:工学(作って試して直す)
手順を組み立てる力がついてきたら、Engineering(工学)に進みます。ここでのテーマは「作って、試して、うまくいかなければ直す」という工学的思考です。小さな構造物から始めて、徐々に扱うスケールを大きくしていくのがポイントです。
① ころころビー玉コースメーカー:小さな構造から
コースを組み立ててビー玉を転がすシミュレーターです。「ここをこう変えたらどうなる?」を繰り返し試せる、扱いやすいサイズの工学課題からスタートします。うまく転がらなくても、その場ですぐ直せる気軽さが試行錯誤への抵抗感を減らします。
コースを組み立ててビー玉を転がすシミュレーター。「もっとうまくいく形」を探す工学的思考を養います。
② まちづくりエンジニア:より大きなシステムへ
小さな構造物に慣れたら、道路や建物を配置してまち全体を設計する、より大きなシステムに視野を広げます。個別の部品だけでなく「全体としてどう機能するか」を考える経験は、支援計画の「見通しを立てる」目標にもつなげやすい活動です。
道路や建物を配置してまちをつくる中で、全体を見通しながら計画する力を育てます。
Step A:芸術(表現する楽しさ)
ここまでS・T・Eと「論理」中心の活動を積み重ねてきました。ここで一度、方向を変えます。Art(芸術)は、身体表現や造形表現を楽しむ時間です。論理課題が続くと集中が切れやすい子でも、表現活動を挟むことで気分を切り替えながらプログラムを継続しやすくなります。
① キャラクターダンスメーカー:動き・リズムの表現
動きを組み合わせてキャラクターに振り付けをするツールです。正解のない表現活動なので、失敗を恐れず自由に試せます。ここまでの「論理的に正しい手順」から離れ、「自分がいいと思う動き」を選ぶ経験が新鮮な達成感につながります。
動きを組み合わせてキャラクターに振り付けをするツール。身体・リズムの表現を楽しめます。
② 折り紙で形の変換思考:空間的な創造へ
続いて折り紙で、平面が立体に変わっていく形の変換を体感します。手順通りに折るという点ではStep0・Tの延長でもありますが、できあがるものが「自分の作品」になる点で、表現活動としての楽しさが加わります。
折り紙の工程を通して、平面が立体に変わる図形の変換を体感しながら学べるツールです。
Step M:数学(パターンと数の感覚)
最後はMathematics(数学)です。表現活動でひと息ついたあと、再び「考える」活動に戻ります。ここではシンプルな数の構造から入り、複雑な図形・論理パズルへと発展させる流れにしています。プログラム全体の締めくくりとして、それまでのステップで育った「順序立てて考える力」「試行錯誤する力」が総合的に活きる段階です。
① 10のまとまりゲーム:数の構造をつかむ
10のまとまりという、シンプルで明確なパターンを扱うところから始めます。数の感覚に自信を持てると、この後のパズル課題にも前向きに取り組みやすくなります。
10のまとまりという数の構造をつかむゲーム。シンプルなパターン感覚を養います。
② STEAMパズル思考トレーニング:複雑なパズルへ発展
数の構造がつかめたら、図形の組み合わせや配置を考えるパズルに進みます。ここまで積み上げてきた「予測する・試す・直す・順序立てる」という力を総動員する内容になっており、プログラムの集大成として位置づけています。
図形の組み合わせや配置を考えるパズルで、試行錯誤しながら答えに近づく感覚を身につけます。
放デイ・学校向け:6週間プログラム例
週1回のペースで取り組む場合の一例です。1週目にStep0を置き、以降は週ごとにS→T→E→A→Mと進めます。子どもの様子を見ながら、同じステップを2週使ってもかまいません。
| 週 | Step | 使用ツール |
|---|---|---|
| 1週目 | Step 0 | タスク分解トレーニング |
| 2週目 | Step S | ふしぎ実験シミュレーター→ピカピカ回路ラボ |
| 3週目 | Step T | プログラミング的思考トレーニング→ロボットおつかいプログラミング |
| 4週目 | Step E | ころころビー玉コースメーカー→まちづくりエンジニア |
| 5週目 | Step A | キャラクターダンスメーカー→折り紙で形の変換思考 |
| 6週目 | Step M | 10のまとまりゲーム→STEAMパズル思考トレーニング |
1回の活動時間は15〜20分程度を目安にすると、集中力が続きやすく、記録も残しやすくなります。6週間終えたら、子どもの興味が強かったステップを個別活動でもう一度深める、という使い方もおすすめです。
家庭向け:週末に1ステップずつ
平日は忙しくて時間が取れない、という家庭も多いはずです。その場合は週末に1ステップずつ進める軽めのペースで十分です。全部で6週末かけて一巡させるイメージで、1回15分程度、無理なく続けられる範囲で取り組んでみてください。
土曜または日曜のどちらか都合のよい日に、1つのステップを1〜2本のツールで体験する。「今日はこの前できたところの続きをやろうか」と声をかけるだけで、子どもは前回とのつながりを感じやすくなります。順番通りに進めることにこだわりすぎず、興味が強い日はそのステップを長めにするなど、柔軟に調整してかまいません。
個別支援計画の5領域との対応
支援者の立場では、このプログラムを個別支援計画に落とし込みやすい形にしておくことも大切です。5領域(健康・生活、運動・感覚、認知・行動、言語・コミュニケーション、人間関係・社会性)との対応関係を簡単に整理しておきます。
| 5領域 | 関連が深いStep | 計画書での書き方の例 |
|---|---|---|
| 認知・行動 | Step0・S・T・M | 「順序立てて考える力・予測して検証する力を育む」 |
| 運動・感覚 | Step A | 「身体表現を通してリズム感覚・動きの調整力を育む」 |
| 人間関係・社会性 | Step E | 「集団での役割分担・意見交換を通した協働経験を積む」 |
| 言語・コミュニケーション | Step T・E | 「指示を出す・説明するやり取りの経験を積む」 |
| 健康・生活 | 全Step共通 | 「達成感を積み重ね、活動への見通しと安心感を育む」 |
すべてのステップを厳密に1領域に当てはめる必要はありません。実際にはどのステップも複数領域にまたがっていますが、計画書に記載する際の目安として活用してみてください。
まとめ
STEAM教育を「なんとなく色々なツールに触れさせる」だけで終わらせず、意味のある順番で積み上げていくと、子どもの中に「できた」の積み重ねが残りやすくなります。今回紹介した流れは、Step0で土台を固め、S→Tで論理的思考を育て、Eでそれを形にし、Aで一息ついて表現を楽しみ、最後にMで総合的な力を発揮する、という設計です。
放デイ・学校では週1回・6週間のペースで、家庭では週末に1ステップずつでも、無理のない範囲で始められます。個別支援計画に落とし込む際は5領域との対応も参考にしてみてください。まずはStep0のタスク分解トレーニングから、今日一歩を踏み出してみてください。
おわり


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